2016年 09月 13日
意外と知られていない事実―女性のがんの臓器別死亡率のトップは大腸がん―


久しぶりに厚労省の人口動態統計をのぞいてみました。厚労省で公表しているデータですが、以前は数字を羅列するだけで非常に見づらかったのですが、いつの頃からなのかグラフも付いて比較的見やすくなっています。その中で男女別の臓器別がん死亡率の年次推移をアップしておきます。(上段が男性、下段が女性です)
グラフを見てもわかるように日本人においては戦後しばらく男女とも胃がんの死亡率が他を圧倒して1位だった時代が続いており、胃がんは国民病とも言われていました。しかし近年、胃がんはやや減少傾向にあり、変わって大腸がんの死亡率が肺がんとともに急速に増加しています。中でも大腸がんは男性では肺がん、胃がんに次いで3位に甘んじているものの、女性では21世紀に入ってから1位に躍り出て、その後は1位の座を譲っていません。どちらかというと女性でがんといえば乳がんや子宮がんが話題に上ることが多いですが、死亡率で比較するとあまり知られてはいませんが大腸がんが臓器別でトップなのです。
実は多くの大腸がんは前がん病変(良性ポリープ)の段階で見つけることができ、大腸がんの芽を摘み取ることができるのです。さらにはもし大腸がんになってから見つかったとしても大腸がんは進行が比較的遅いため、早期に発見できればほぼ完治させることが可能ながんなのです。しかし残念ながら現実は進行して発見されることが多いため、そのことが死亡率の高さにつながっています。
大腸がんの検診といえば、自治体のがん検診にしても職場の企業検診にしても便潜血反応検査(検便)が行われるのが一般的です。検便検査は簡便で低費用なので集団検診には向いているかもしれませんが、実は精度に欠ける検査なのです。ある報告によると1回の検便検査では進行癌でも2~3割は見逃してしまい、早期癌にいたっては5割も見逃してしまうと言われているほど精度の低い検査です。検便検査で大丈夫だったとしても安心はできません。
大腸がんの検査で最も信頼できる検査は大腸内視鏡検査(大腸カメラ)です。大腸カメラをやれば大腸を直接観察するので、大腸がんを見逃す可能性はほぼゼロです。ただ大腸カメラは痛く辛い検査だということで敬遠する方が多いのも事実です。しかし最近は機械が改良され、また検査医の技術も進歩し、ほとんど痛くない検査になりました。実際、当クリニックで大腸カメラを受けた患者さんもほとんどの方が「痛いのが不安だったけど、こんなに楽だとは思わなかった」、「こんなに楽なら毎年やってもいい」と感想を述べていきます。
日本国民の大腸がんの死亡率を減らすためには全国民の大腸がん検診に大腸カメラを用いることが理想ですが、大腸カメラの数も検査医の人数も到底追いつかず、今のところは不可能です。ただ大腸がんの多くなる年代30歳代後半から40歳代にさしかかった方や、血便、腹痛、下痢、便秘など大腸に関連する症状のある方は、ぜひ一度大腸カメラを受けることをお勧めします。